こんにちは。管理人のキノです。
【Review】では、最近読んでおもしろかった作品をご紹介しています。
今回はチェコの小説「シブヤで目覚めて」をご紹介します。
この作品は『現代のチェコを感じられる小説が読みたい!』という人におすすめです。
私はチェコ旅行に行った後、現代プラハが舞台の本を読みたいと思って手に取りました。
「シブヤで目覚めて」ってどんな小説?
チェコ文学って難しそうなイメージがあるんだけど、「シブヤで目覚めて」はどんな小説なの?
チェコ人作家アンナ・ツィマのデビュー作だよ。
プラハと渋谷を舞台に物語が展開されていくんだけど、作中に芥川龍之介や川端康成の話も出てくるから、日本人には馴染みやすい作品じゃないかな。
あらすじ
こちら渋谷、こちら渋谷。プラハ、聞こえますか?
プラハの大学で日本文学を専攻するヤナは、ゴスロリと忍者が闊歩する学部で謎の作家・川下清丸の小説にのめりこんでいる。
引用元:「シブヤで目覚めて」アンナ・ツィマ(河出書房新社)の帯
そんなとき渋谷では「分裂」した17歳のヤナが単語帳片手に幽霊となって街に閉じ込められていた。
鍵を握る謎の作家の秘密とは?
日本文学フリークたちの恋と冒険の行方とは。
チェコ文学新人賞を総なめにした作家による、ふたつの街が重なり合う次世代ジャパネクス小説。
作者について
1991年、プラハ生まれ。カレル大学哲学部日本研究学科を卒業後、日本に留学。
「シブヤで目覚めて」で2018年にデビューし、チェコ最大の文学賞であるマグネジア・リテラ新人賞、イジー・オルテン賞、「チェコの本」文学賞を受賞。
なんと作者は日本在住のチェコ人作家さん!
現在は小説を執筆する他にも、博士論文のための研究や翻訳なども行っているんだって。
道理で日本に詳しいわけだね。
こんな人におすすめ!
- 現代プラハが舞台の小説を読みたい人
- 読みやすいチェコの小説を探している人
- 海外から見た日本や日本文学に興味がある人
チェコに馴染みがなくても読みやすい!
チェコのことよく知らないんだけど、私でも読めるかな?
チェコに馴染みがなくても、日本人には読みやすい作品だから大丈夫!
主人公は、日本文学を研究している大学院生です。
そして、物語は主人公が研究している日本文学を軸に展開していきます。
(この時点で親しみを感じますよね?笑)
日本人なら誰もが知っている文豪や文学作品が出てくるし、なんでこんなに日本が好きなんだろうと興味を引かれます。
その上、渋谷も作品の重要な舞台なので、『チェコ人から見た日本ってこんな感じなんだ…』という点からもおもしろい作品です。
チェコやチェコ文学には馴染みがなくても、この作品の主人公は同じ時代を生きる大学院生!
なので、心情を想像するのも難しくないし、共感もしやすいです。
これがカフカの時代や、共産主義の時代の話だと、時代背景を理解する必要があります。
(状況が分からないと、心情を理解するのは難しいですもんね。)
読むのに特別な前知識がいらない。
それもこの作品の読みやすさの一因だと思います。
作者が日本在住のチェコ人なので、日本の描写が超リアルです。
なので、海外作品で時々見かける『なんちゃって日本』感がなくて、すんなり受け入れられます。
変なツッコミどころがないので、スムーズに読み進められます。
感想
正直、最初はなかなか物語に入り込めませんでした。
プラハのヤナと渋谷のヤナ、どちらのヤナにもいまいち感情移入できなかったからです。
でも、3章くらいからプラハが身近に感じられるようになって、プラハのヤナが想像しやすくなると、一気にページを進む手が加速。
プラハのヤナと渋谷のヤナがどうつながっていくのか、手掛かりを探しながら読むのが楽しくなりました。
文学的な要素も多分にある作品なので読むのに時間はかかりましたが、終盤はかなり冒険的!
わくわくするし、ハラハラします。
そして最後は余韻を残した終わり方をします。
(登場人物たちがその後がとても気になる…。)
でも、この余韻がいいのだと思います。
想像の余地がある終わり方が素敵だし、この作品には合っている気がしました。
私は本は好きですが、文学が好きかと言われるとよく分かりません。苦手意識の方が強い気さえします。
でも、この本を読んで少し文学の良さが分かった気がしました。
作品を楽しむための予備知識
プラハってどんなとこ?
チェコの首都。
『百塔の街』『建築博物館の街』『ヨーロッパの魔法の都』などの別名を持つ、中世の街並みを残す美しい街です。
中世ヨーロッパ最大の都市で、『黄金のプラハ』と呼ばれていました。
14世紀にカール4世が神聖ローマ帝国の首都をウィーンから移したことで発展し、現在の街並みになったと言われています。
プラハ大学(現カレル大学で、ヤナの大学のモデルと考えられる)が創立されたのもこの頃です。
その後、フス戦争や三十年戦争、ハプスブルク家によって王宮がウィーンに移されたことなどから街は衰退していきました。
参考資料
「人生を彩る教養が身につく 旅する世界史」佐藤幸夫(著)
「地球の歩き方 チェコ ポーランド スロヴァキア 2020~2021」地球の歩き方編集室(編)
もっと詳しくチェコのことを知りたい人は「チェコを知るための60章」がおすすめです。
チェコの現代史
1918年 | オーストリア=ハンガリー帝国が崩壊し、チェコスロヴァキア共和国が成立 |
1938年 | ミュンヘン会議により、チェコスロヴァキア共和国が崩壊 |
1939年 | 西半分(ボヘミア・モラビア地方)はドイツの保護領となり、東半分はスロバキア共和国となる |
1945年 | 第二次世界大戦後にドイツの支配から解放 |
1948年 | チェコスロバキア社会主義共和国が発足 |
1968年 | プラハの春(民主化運動) |
1989年 | ビロード革命により、共産主義体制崩壊 |
1993年 | スロバキアと平和裡に分離し、チェコ共和国成立 |
歴史を知ると、作中に出てくる廃墟や団地は、もしかしたら共産主義時代の名残かも!…なんて想像もできて楽しいね。
ビロード革命前後(共産主義から資本主義に移行する頃)のプラハの様子が知りたい人は千野栄一(著)「ビールと古本のプラハ」がおすすめだよ。
参考資料
外務省HP「チェコ共和国」
川下清丸と交流があったとされる大正時代の作家たち
「シブヤで目覚めて」には日本の文豪たちの名前がたくさん出てきます。
ヤナが夢中の『川下清丸』と親交があった(という設定の)作家について簡単にまとめてみたので、よければ参考にしてみてください。
明治25(1892)~昭和2(1927)。東京都生まれ。
菊池寛、久米正雄らとは一高の同級生で交流があった。東大在学時に第三次「新思潮」を創刊。新思潮派。35歳の時、自宅で睡眠薬自殺した。
代表作は「鼻」「地獄変」「羅生門」など。
明治21(1888)~昭和23(1948)。香川県生まれ。
一高にて芥川龍之介らと同級生。第三・四次新思潮の同人。新思潮派。雑誌「文芸春秋」の創刊や芥川賞・直木賞の設定に尽力した。
代表作は「父帰る」「恩讐の彼方に」など。
明治31(1898)~昭和22(1948)。福島県生まれ。
早稲田大学を中退後、菊池寛に師事。川端康成らと雑誌「文芸時代」を創刊。新感覚派。
代表作は「日輪」「蠅」「機械」など。
明治32(1899)~昭和47(1972)。大阪府生まれ。
東大入学後、今東光らと第六次「新思潮」を創刊。菊池寛や横光利一らと親交があった。東大卒業の年、「文芸時代」を創刊。昭和43年にノーベル文学賞を受賞。73歳の時にガス自殺により死去。
代表作は「伊豆の踊子」「雪国」「千羽鶴」など。
全員、国語便覧に載ってる人たちだ!
学生時代の便覧は捨てちゃった人も多いと思うけど、1000円程度で買えるから、興味のある人は購入してもいいと思うよ。
大河ドラマを観る時にも、役立つこと間違いなし!
まとめ
今回は現代プラハと渋谷が舞台のチェコ小説「シブヤで目覚めて」をご紹介しました。
チェコ文学には馴染みのない人がほとんどだと思いますが、現代プラハが舞台の小説を読みたい人や読みやすいチェコの小説を探している人、海外から見た日本や日本文学に興味がある人におすすめの作品です。
興味を持った方は、ぜひ読んでみてください。